相続税対策
相続税対策
相続税の対策については、それだけで1冊の本が出版されているように、簡単に説明できるものではありません。
多数の不動産を所有している方には、様々なところから、各種の相続税の対策について提案がされおり、ここでそれを説明するつもりではありません。
当事務所は、司法書士、土地家屋調査士、CFPⓇ、宅地建物取引主任者の資格を有し、不動産業の経験もあり、地主からの相談や実際の相続の手続をした経験があります。
その経験から、巷で相続税の対策としてこうすればよい、といわれている内容を誤解していることや、知られていない注意すべきことがあることに気づきました。ここでは、それについて説明します。
借金をすれば相続税が節約できる
借金をすれば相続税が減る、というのは誤りです。
借金をしていれば相続税は少ない、というのは正解です。
なにが違うのかというと、10億円の資産をもっていて、相続税の対策として5億円借入れても、資産が5億円増加して15億円となるので、正味10億円の財産があることに変わりはなく、相続税は全く変わりません。
10億円の資産を持っているが、借金がすでに5億円あるという場合は、正味財産は5億円なので、相続税は少なくて済みます。
ある意味当たり前のことで、なにを今更このようなことを説明するのかというと、意外とこれを勘違いしている人が多いからです。
これを勘違いしていると、借金を返すだけの現金を持っているのに、借金がなくなると相続税が増えてしまうからといって、返済をしないでいるということが起こります。また、借金をせずに現金でまかなえるのに、敢えて借金をするということがあります。これにより、負担しなくてよい利息を負担することになります。
それでは、借金を返すことができるだけの現金があれば、すべて借金の返済をしてもよいのか、というとそういうわけでもありません。
ここで考えなければいけないのは、支払が予定されるお金の分(相続税がその代表です)については、現預金として残しておかなければならないということで、相続税を2億円支払うことが予想されているのに、保有している5億円の金融資産で5億円の返済をしてしまうと、いざ相続が発生したときに相続税納付の資金が足りなくなって問題となります。この場合は、3億円分の返済はしたほうが、利息の支払が少なくなり、望ましいということです。
更地に建物を建てれば相続税を節約できる
これは誤りではありませんが、具体的にどうするかは慎重に検討をする必要があります。
大きな更地を保有していると、必ずといっていいほど、相続税の対策のために、賃貸アパート・マンションを建てましょうと勧められます。
確かに、賃貸アパート・マンションを建てることで、相続税は節約できますが、これは慎重に検討しなければなりません。
私は、究極の相続税対策として、冗談半分に次のような説明をします。
相続税を支払わずに済むようにするには、保有している資産を全部現金に換え、全てをパーと使ってしまうことです。そうすれば相続税は0円になります。
そうです、所有財産が減れば、相続税は減るのです。
勧められる相続税の対策には、これに近い内容となっているものがあります。賃貸アパート・マンションを建てることで相続税を減らせることは事実ですが、そこに注目する余り、収益性の低い物件を建築してはならないということです。
さらに、通常は更地であればすぐにでも売却が可能ですが、賃貸物件を建ててしまうと、売却できないわけではありませんが、売りにくくなって結果的に損失を被ることがあるということや、実際に相続が発生したときに、相続財産を分けようとしても分けるに分けられないという問題も生じます。
借入れをして収益物件を建てたた場合の注意
これはほとんど知られていないことのようです。
仮に10億円の借入れをして収益物件を建築したとします。
毎年の返済額は5,000万円、家賃収入は諸経費を除いた後、6,000万円であるとします。
当初は、返済のほとんどは利息で、費用として計算されるため、利益は1,000万円で、これに対して税率20%とすれば、税金がを200万円支払い、手元に800万円の収入が残ります。
ローン返済完了近くになると、利息の返済割合は減り、返済額のほとんどは元金の返済となります。そうすると、返済額はやはり5,000万円、家賃収入もそのまま6,000万円であるとして、元金の返済は費用とはならないので、利益は6,000万円になります。名目上の利益は大幅に増えたわけですが、ここから元金の返済をしています。
税金は、6,000万円の利益となりますあら、税率40%(累進課税で税率が上がる)とすると、2,400万円の税金を支払わねばなりません。
ローン返済後、手元には1,000万円しか残らないのに、2,400万円の税金を払わねばならないのです。どうしたらよいのでしょう。
これが、利益とキャッシュフローの問題で、企業などでキャッシュフローが足りず、損益計算上では黒字であるにも拘わらず倒産するという、黒字倒産と言われるものです。
分かりやすくするために、細かい部分には目をつむり、大雑把な計算をしていますが、実情と全くかけ離れた計算ではなく、このことを分かっていないと、当初は十分な収入があってよかったのに、徐々に厳しくなっていき、最後にはお金が足りなくなってローンの返済ができなくなるということになります。
相続税対策と直接関わる問題ではないかもしれませんが、相続税の対策のため土地の有効活用として収益物件を建築することを勧められます。実際に建築を検討するときには、この税金の問題を十分に考慮しておく必要があります。
<相続税対策> 最終更新 2012-05-24 (木) 22:17:10 by 司法書士下原明(大和市)